司は姫宮の唇から、頬、耳、そして首筋・・・と嘗めるようにゆっくりと口を這わせていく。
思わず欲情のままに急いてしまいそうな自身を必死に宥めつつ、姫宮が感じるポイントを重点的に攻めてその反応を楽しむ。
「―――あ・・・っ・・・」
「お兄様、筋肉も感じるの?」
姫宮は躰をよじって、なんとかして司の愛撫から逃れようともがく、そうするとさらに腹筋が浮き出て、しなやかな筋肉の線を強調した。
「お兄様、暴れると余計にエロいんだけど・・・・」
「―――・・・司・・・これ以上続けたら、本気で容赦しないからな・・・・」
姫宮は耳まで真っ赤になりながら睨み付けてくるが、ちっとも迫力がない。司の目には逆に可愛く見えるだけで全くの逆効果である。
「・・・どう容赦しないっていうの?キスしても良いって言ったのはお兄様の方だぜ」
「・・・キ・・・キスなら、もう散々しただろうがっ!!」
「だって、俺まだ全然満足してないもん。それに、キスの場所までは指定してないし・・・」
司は雑誌の撮影の時のように、取っておきの笑顔で答えた。
「・・・―――おまえなっ!!」
「可愛い弟の、可愛いおねだりだよ。そう思ってくれないかな?お兄様」
「・・・思えるかっ!!・・・誰が可愛いって!?」
「でも、俺のこと、本当は好きなんだろ?」
「・・・なっ・・・何言ってるんだよっ!」
「でも、ファンだって言っただろ?」
「―――・・・知るかよ!こんな性格の悪いヤツのファンになんか、誰がなるかっ!」
姫宮は喚きながら、身体を揺さぶり、なんとかして上にいる司を落とそうとする。
流石に姫宮の腹筋力は侮れないものがあり、司は顔では余裕をかましているものの、実はロデオボーイよろしく振り落とされないようにバランスを取るのに必死だった。
「酷いなあ、その言い草。俺のファンクラブに殺されるぜ、お兄様・・・・っとと・・・」
その瞬間ぐらりと司の身体が大きく傾く。
姫宮が渾身の力を振り絞り、司の身体ごと寝返りを打った。
司が「あっ」と思った時はすでに遅く、形勢はすっかり逆転していた。
「!!」
「柔道の寝技を使うまでもないな。・・・どこに筋肉があるんだ?スリムなのもいいけど、男なんだからもうちょっと鍛えた方がいいんじゃないか?司」
今までやりたい放題やられた仕返しのつもりか、今度は姫宮が司をがっちりと上から組み敷き、馬鹿にしたように笑う。
「―――・・・くそぅ・・・っ」
ぐうの音も出ずに、司は心底悔しそうに呻く。
いつの間にか姫宮の両腕を拘束していたマフラーが解けていた。
司なりの画策は結局なんの意味もなさず、なにもかもこれでおしまいかと思うと、司は暗澹たる気分になった。
そんな司とは対照的に、姫宮はここぞとばかりに説教を始めた。
「それに。こんな縛り方で、縛ったつもりか?大体、こんなもので縛ったって動けばそのうち解けるに決まってるだろう。まったく・・・お前には、いろんな意味で呆れる・・・」
「―――うるさいなっ!そこで兄貴面するな」
「お前がアホすぎるから、黙ってられないんだよ。男と寝たことなんかないクセに・・・しかも、いきなり強行突破しようなんて土台無茶苦茶なんだよ。自分の腕力考えてみれば分かるだろうに・・・」
何もかも姫宮の言うとおりなのは分かっているが、感情は理屈ではどうにもならないんだと司は反発したかった。
けれど、力でも理論でも姫宮に勝てる要素はまるで無く、せいぜい不貞腐れたようにそっぽを向いて呟くのが司には精一杯だった。
「どうせ、俺は馬鹿でガキで軟弱だよ・・・。姫宮には釣り合わない・・・そんなこと分かってるさ」
「―――・・・分かってないよ。お前は・・・」
「・・・なにが・・・?」
「―――・・・」
司の問いには答えず、姫宮は司の上から退いて立ち上がると、何処か遠くを見つめるような瞳をし、小さく溜息をついた。
「・・・やっぱり、お前とは会うべきじゃなかった。こんなことになるって分かってたら、絶対に会わなかった・・・」
ベッドから身を起こした司は、座ったままイラついたように腕を組んだ。
「・・・その台詞は何度も聞いた。もう、聞きたくない・・・」
「聞けよ、司・・・」
「何をだよっ!?」
司は突然切れたように大声で怒鳴った。
今更何を聞けというのか?
自分の気持ちを無防備に姫宮に晒す度に拒絶された為、司のプライドはすでにズタズタになっていた。
なにしろ元々自尊心の強い司にとっては、今まで自分から告白するなどという行為さえ有り得ないことだったのだから・・・。
そう打たれ強くもない司には、これ以上の拒絶はさすがに限界だった。
司は暗い気分に苛まれながら、姫宮がゆっくりと次の言葉を絞り出すように言うのを眺めていた。
「―――・・・俺、・・・本当はゲイなんだ。・・・だから―――」
「・・・・ゲ・・・イ・・・?!」
to be continued....